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最近、twitter

自然言語に見られる理不尽な仕様、歴史をたどっていけばたいてい納得のいく理由は出て来る。けど、それは歴史あるから守ろうってものじゃなくて、たいていの場合負の遺産をしょっちゃってる状態。異文化交流進むほど消失する。

などとつぶやいていたわけですが。

英語が、他の印欧系言語比べてずいぶんシンプルになってるのも異文化交流の結果ですし、さらに言うと、まだ簡素化の余地あり。実際、英語ベースのピジン(他の言語と混ざってできた方言)だと、今の英語より簡素化されてたりします。

複数形

欧印系言語は、本来、格変化する代わりに語順が自由。英語は複雑な語尾変化をなくす代わりに語順の自由捨てたという言語です。

で、その複雑な語尾変化をなくす過程で複数形と三単元だけ残っちゃったと。残念なことに。

印欧系言語にとっては、「数を与える」ってのが大事なことだったりします。数を持たないと単語が具体化しないという。例えば:

  • dog: 漠然と、犬という種
  • a dog: 現実にいる「とある犬」

という区別。

昔は格変化があったので、原型が抽象、主格とか目的格にしたら具体化って区別できたはず。

  • dogで抽象的に犬という種
  • dogoで「とある犬」
  • dogosで「とある犬たち」

で、英語の、格変化の消失の過程で、この語尾の o が消えたと。その代り、数の概念は必要なので、冠詞か数詞をあためにつけなきゃいけない。

ただ、語尾変化なくす代わりに冠詞・数詞って発想まではいいけど、複数形だけ語尾変化を残したのがいただけない。複数形冠詞でよかったはず。

実際、ピジン語では these に相当する冠詞付けて複数形表すもの多いらしいです。英語の場合は some とかでもいいかも。冠詞らしく、sa とか som とか、妙に縮めてもいいだろうし。

  • dogで抽象的に犬という種
  • a dogで「とある犬」
  • some dogで「とある犬たち」

格変化が消失してるはずの言語としては、こっちの方が自然な感じが。

ちょっと余談: 原形=?

ちなみに、印欧系の場合、格変化前の原形は不定詞(英語でいうと「to + 動詞」的なの)に使われるせいか、原形のまま = 動詞的な印象があるみたいで。

日本語は逆ですね。たとえば、「走」という文字、「走る」というように「る」をつければ動詞、「走り」にすれば名詞的に使えるわけですが、「走」単体を見ると、どっちかというと「走り」の方の印象受ける。

というので、英語の場合だと、ほんとは、dog を原形のまま使うと、「犬のように何かする」(おそらくは、例えば、「従順になる/従順に言うこと聞く」みたいな)になるのかな。「犬という種」だと、dogoid とか、そういう語尾つけて。

you

英語の単複で変なのは、you もそうですね。I⇔we、he⇔they とかあるのに、you だけ複数形がない。

実際のところ、ないのは単数形の方なんですけども。というのは、古英語だと、

  • 2人称単数: thou thy thee
  • 2人称複数: ye your you

という区別があったので。thou 消失のからくりは、たぶん、フランス語の影響。フランス語だと、

  • 2人称単数 = 特定の個人をきっちりさして「あなた」 → 親しい人相手に「お前」
  • 2人称複数 = 漠然と大多数を指して「あなた」 → よそよそしく「あなた」

という感じで、単数形の tu は親しい人用、複数形の vous は敬語、みたいになっています。

英語も一時期、こんな用法になっちゃった上で、「結局めんどくさいから丁寧語の方で統一しようよ」みたいになって、単数形が消失。you だけが残ったという。

三単現

同じ理屈で変なのが三単現の s。これももともとは、1人称、2人称、3人称がそれぞれ別の語尾に変化してました。例えば、have だと、haf が語幹で、

  • I have
  • you hafst
  • he hafth

みたいな。(適当。というか、その当時は I とか have の形がそもそも違ったはず。)

それがなぜか、3人称単数現在形でのみ、それも、複数形の s と同じルールでの語尾変化が残ったという。

残った理由は、命令形かなぁと思われます。変なたとえですけど、

  • Mike! go home!(マイク、お前もう帰れよ!)
  • Mike goes home.(マイクは家に帰る)

って書けちゃうんですよね。三単現の s 取ったらこの区別がつかず。これも、昔だったら、命令形語尾があったから特に問題にならないんですけど、なぜか今の文法だと原形をそのまま使っちゃうので。

疑問形も、今の英語は「助動詞を倒置」とかいう意味わからない文法ですけど、普通の印欧系言語は動詞を倒置するはずで、動詞が頭にきます。今の do you have... みたいなのは hafst you... 的になるはず。活用なくなった今となっては命令形との混乱がありえそうな。

疑問形や命令形は、ピジン語で多いのは文末に感嘆詞をつけるってのですかね。日本語とか中国語がそうですけど、明示的な疑問形ってのを持たず、アクセントの付け方だけで疑問を表現。ただ、明示的に疑問を示した胃場合には語尾に「か」とか「ma」をつけたり。というのがあるので、中国語混じりのピジン語だとほんとに、平文+ma で疑問文を作ったり。命令文も、2人称現在形そのまま使うか、命令を明示したい場合は「平文+ba」とか。